港湾の桟橋や防波堤などの海洋構造物において、海水に常時浸漬していない大気部および飛沫帯※1・干満帯※2は電気防食による防食効果が十分に得られません。これらの部位における腐食対策には、腐食の環境因子から遮断できる被覆防食を適用する必要があります。港湾鋼構造物に適用する防食法は図に示す方式(A)〜(C)のいずれかであり、干満帯においては、被覆防食と電気防食を併用することで、より確実な防食効果を得ることが可能です。



- ※1:飛沫帯(ひまつたい)
-
海岸線において波が構造物などに打ち寄せることで水しぶき(飛沫)が常時かかる区域のこと。具体的には、満潮線より上の大気部分で、波しぶきの影響を受ける範囲全体を指す。
- ※2:干満帯
-
潮の満ち引きで鋼材表面が水没したり、大気中に露出したりを繰り返す区域のこと。具体的には、満潮(H.W.L)時の水位と干潮(L.W.L)時の水位の間の区域を指す。
ペトロラタム被覆工法
ペトロラタム被覆工法は環境遮断型の防食システムの一つです。ペトロラタムは防錆油の一種で、化学的に不活性であり、持続的な粘性を保ちながら鋼材表面へ優れた密着性を示します。さらに、極めて低い透湿性と優れた酸素遮断性を持ち、高い電気絶縁性を備えた防食材料です。防食層ではこのペトロラタムを含有したペーストやテープ、またはシートを鋼材表面に密着させることで、腐食の主要因である酸素や水を確実に遮断します。防食層を外部からの衝撃や摩耗のほか、海水、紫外線などの環境因子から保護し、長期的な密着性を確保するため、下記に示す樹脂製または耐食性金属製の保護カバーで覆うのが保護層です。新設・既設構造物を問わず施工可能で、簡易な素地調整のみで長期間の防食効果を実現できる信頼性の高い技術として高く評価されており、期待耐用年数は30~35年とされています。


樹脂製保護カバー方式(PTC工法:Petrolatum Tape and Covering System)
ペトロラタム被覆工法のうち、防食保護カバーの材質にFRP(繊維強化プラスチック)を採用した方式が「PTC工法」です。FRPは不飽和ポリエステル樹脂とガラス繊維の複合材で、軽量でありながら高い強度を持ち、耐候性や耐衝撃性、耐食性に優れています。これらの特性から、船舶や航空機、化学プラントなど、幅広い産業分野で構造材料として使用されています。本方式の特徴は、工場製作による高品質なFRP保護カバーの提供が可能であることに加え、そのカバーの現地加工が容易な点です。また、構造物の形状に合わせて現場での積層成型も可能です。この柔軟な施工性により、複雑な形状の構造物を含む、さまざまな現場条件に対応することができます。
鋼管杭被覆要領図

鋼管矢板被覆要領図


鋼矢板被覆要領図


現場積層成型要領図







耐食性金属製保護カバー方式
ペトロラタム被覆防食保護カバーの材質には、スーパーステンレス鋼やチタンといった耐海水性に優れた金属材料も採用しています。スーパーステンレス鋼(二相系耐海水性ステンレス鋼)は、オーステナイト相とフェライト相の二相組織を持ち、優れた耐食性と高い強度を兼ね備えています。また、チタンは軽量で耐食性に極めて優れた金属材料です。当社では、これらの金属材料を用いた「PTC-SUS工法」および「PTC-Ti工法」を提供しており、現場条件や要求仕様に応じて最適な防食システムの選定が可能です。
PTC-SUS工法要領図/
PTC-Ti工法要領図








水中硬化形被覆工法
水中硬化形被覆工法は、環境遮断型の防食システムの一つです。本工法は、干満帯や海水中部での施工が可能な二液混合型エポキシ樹脂を使用し、水中でも硬化する粘土状のエポキシ樹脂を対象鋼材に塗布することで防食効果を発揮します。使用材料が少なく材料納期が短いことに加え、粘土状の材料特性により、現場の構造物形状が複雑であっても容易に施工できます。特に部材が多い構造物や、事前の形状確認が困難な部位においても適用が可能です。本工法の期待耐用年数は20~25年とされています。

特殊ウレタン樹脂カバーリング工法
特殊ウレタン樹脂カバーリング工法は、環境遮断型の防食システムの一つです。本工法は、水中での付着性に優れた二液性の特殊なウレタン系樹脂を防食材料として使用します。この特殊ウレタン系樹脂は、柔軟性と強靭性を備え、対象構造物の形状に応じて硬化する特性を持っています。また、環境負荷が小さいことも大きな特徴です。保護カバーに特殊ウレタン系樹脂を塗布後、対象鋼材に貼り付けることで腐食因子を遮断します。防食層が構造物の形状に追従して硬化するため、絶えず外的負荷がかかる構造物においても高い防食効果を発揮します。これにより、主に浮桟橋の係留杭などの防食工法として採用されています。本工法は、耐久性と環境適合性を兼ね備えた信頼性の高い技術として評価されており、閉鎖水域(湖沼等)での適用実績も有しています。
特殊ウレタン樹脂
カバーリング工法要領図

