調

港湾構造物は、海洋という過酷な腐食環境にさらされていることや、高度経済成長期に集中的に整備され耐用年数を迎えつつあるものが多いことから、劣化損傷による安全性の低下が懸念されています。適切な維持管理によって施設の安全性を確保するとともに、長期にわたって利用していくことが、持続可能な社会の実現という観点からも重要です。継続的な維持管理点検は、施設の健全性を保ち、将来の劣化を予測する上で不可欠な取り組みです。当社では、豊富な腐食の知見と長年にわたる防食の経験・技術を生かした点検・調査・診断を通じて腐食の進行状況を正確に把握し、適切な防食対策を提案します。また、鋼構造物やコンクリート構造物など、各種施設の維持管理計画に基づいた点検・調査業務、劣化度判定も行っています。これらの維持管理点検を通じて、施設の長寿命化とライフサイクルコストの低減を実現し、港湾機能の維持・向上に貢献します。

腐食・劣化調査

港湾構造物の中には、防食工法を適用せず、あらかじめ腐食量を見込んだ板厚、いわゆる「腐食しろ」で設計された無防食の鋼構造物が現在も多く存在しています。ただし、腐食速度は環境条件により大きく異なり、特定の場所では集中腐食によって設計時の想定の数倍に達することもあります。その結果、構造物の強度に影響を及ぼす事例も見られます。これらの施設は水中部など、陸上からでは確認が難しい場所に位置することが多く、気付かないうちに腐食が進行し、貫通孔が発生するおそれがあります。そのため、専門の技術員あるいは潜水士による目視調査を実施し、現状の腐食状態を把握することが重要です。その上で、腐食の進行状況や環境条件に応じた適切な対策を講じていくこととなります。

外観目視

簡易的な調査方法として有効なのは、専門の技術員あるいは潜水士による外観目視調査です。一般目視では、海生生物が付着した状態でも比較的大きな腐食貫通孔や鋼材の発錆状況を確認することが可能です。さらに、海生生物を除去した後の詳細目視では、小さな腐食貫通孔や孔食などの腐食状態に加え、衝突や接触による変形など外的要因による変状もより正確に把握することができます。

外観目視状況

肉厚測定

港湾構造物を支える鋼材は腐食によって厚みが減少していき、貫通孔が発生したり、強度を失って倒壊するおそれがあります。鋼材の現状の厚さを正確に把握するためには、水中部でも使用可能な超音波厚み計を用いて肉厚測定を行います。特に防食工が施されていない鋼材の肉厚測定は、施設に必要な強度を維持できる厚さが残存しているかを確認する上で非常に重要です。得られた測定データは、年間腐食速度の算出によって施設の健全性や耐久性の評価に活用します。また外観目視により貫通孔が確認された場合は、補修に必要な鋼材の形状を決定するためにも肉厚測定を行います。

肉厚測定状況

水質調査

電気防食のうち流電陽極方式は、陽極から鋼材へ防食電流を供給することで防食効果を発揮しますが、この防食電流の流れやすさは水の電気抵抗率に大きく影響を受けます。そのため、対象箇所の水(電解質)の電気抵抗率および塩化物イオン濃度を確認する水質調査がとても重要です。日本の主要な港湾の電気抵抗率は事前に把握していますが、満潮干潮で海水や河川水が入れ替わるような複雑な海域等では、個別の調査が必要です。また、電気抵抗率が大きい場所では流電陽極方式による十分な防食効果が期待できない場合があるので、強制的に防食電流を供給する外部電源方式や、被覆防食などの他の防食工法を検討する必要があります。

採水状況

電気防食点検

電気防食工法適用後の定期的な点検は、長期にわたって適切な防食効果を発揮するために重要です。また点検によって蓄積されたデータは、電気防食の更新計画に活用します。当社の保守管理システムは、その扱いやすさと精度の高さから、多くの信頼を得ています。

電位測定

電位測定とは、対象となる構造物の金属表面と照合電極との電位差を測定することで、防食状態の可否を判定するためのものです。定期的に電位測定を行って防食装置の健全性を把握することで、計画的に電気防食の更新計画を立てることが可能となります。

電位測定状況

陽極消耗量調査

流電陽極方式(アルミニウム合金陽極)が適用されている施設では、陽極の形状から残存質量の算出や残寿命の推定ができます。この調査を通じて、より精度の高い陽極の更新計画立案が可能になります。

陽極寸法確認

陽極発生電流測定

流電陽極方式(アルミニウム合金陽極)の場合、陽極消耗量調査のほかに陽極の発生電流を測定することでも装置の稼働状況や残存寿命を把握することが可能です。発生電流測定は、防食対象と陽極心金の間に電流測定装置(シャント抵抗)を挿入し、計測用ケーブルを高抵抗電圧計に接続して行います。当社では要望に応じて陽極発生電流測定装置付の陽極を提供しています。

発生電流測定装置設置状況
発生電流測定装置設置状況

被覆防食点検

被覆防食の点検は、ペトロラタム被覆とその他の被覆防食に大別されます。被覆防食は経年による劣化のほか、紫外線による劣化や漂流物の衝突による損傷など、さまざまな要因により変状が発生する可能性があります。これらの変状や劣化を放置すると、被覆の損傷部から腐食が進行するため、定期的な点検が必要となります。当社は、自社で施工を行うペトロラタム被覆・水中硬化形被覆に限らず、被覆防食工法全般にわたる点検を提供しています。各種被覆防食工法の特性を熟知した技術者により、適切な維持管理をサポートしています。

外観目視

被覆防食の変状や劣化の確認方法として外観目視調査があり、潜水士による水中目視と技術員による海上目視があります。

主な
点検対象
  • ・塗装、超厚膜形被覆、水中硬化形被覆
  • ・重防食被覆(ポリエチレン被覆、ウレタンエラストマー被覆)
  • ・ペトロラタム被覆
  • ・コンクリート被覆
  • ・モルタル被覆
外観目視状況

被覆防食の開放点検

防食材の内部にある鋼材の状態を正確に評価するためには、外観目視だけでは不十分なため、開放点検を行う必要があります。ペトロラタム被覆では潜水士により保護カバーを開放し、鋼材の防食状態を確認することができます。その他の被覆防食では、一般的に部分的に破壊しての点検となります。

ペトロラタム残存率測定

ペトロラタム被覆は、ペトロラタム系防食材中の防錆成分(ペトロラタムコンパウンド)が経年的に消耗します。そこで、開放点検によるペトロラタム系防食材のサンプリングを行い、防食材中に含まれる防錆成分の残存量を測定することで防食性能を評価しています。目安として防錆成分の残存量が80%以上であれば、防食効果を維持しているものと判断されます。

保護カバー開放後防食材