港湾施設の鋼材は、海水環境下では激しく腐食(錆び)が進行します。海水は電気が流れやすく溶存酸素も十分に含むため、腐食が最も進行しやすい環境となっています。海水中の鋼材は目視での腐食状態の確認が困難であり、適切なタイミングでのメンテナンスが難しい特徴があります。そのため、気づかないうちに深刻な劣化が進行し、桟橋の崩落や防波堤の崩壊などの重大な事故につながる可能性があります。このような危険性を未然に防ぐため、電気化学的な作用で腐食を防止する電気防食技術が用いられています。
電気防食には「流電陽極方式」と「外部電源方式」の2種類があります。当社では構造物の規模、立地環境、維持管理の難易度、経済性などを総合的に評価して、それぞれの特徴を活かした最適な方式を選定します。
電気防食は、水中や土中のような電流が流れる環境では長期的な防食効果を発揮します。一方、電流が流れない大気中の対象物には、環境から遮断する防食方法が必要となります。このため、港湾施設全体の防食対策としては、海水中・海底土中への電気防食、飛沫帯・干満帯への被覆防食、そしてコンクリート構造物中の鉄筋への防食を適切に組み合わせた総合的な防食設計で対応しています。
港湾構造物の標準的な適用防食法

流電陽極方式
流電陽極方式は、陽極と鋼材の電位差を利用して、海水を通じて防食電流を供給する方法です。この方法では、取り付けた陽極が優先的に腐食することで、大切な鋼材を守ります。被覆防食と比べて工事費用を大幅に抑えることができ、かつ確実な防食効果が得られる方法として知られています。さらに、電源設備が不要で設置工事も容易なため初期費用を抑えることができ、陽極を取り付けるだけで継続的な防食効果が得られるため、日常的な維持管理の手間もかかりません。確実な電気的導通を確保し、脱落を防止するため、陽極は溶接などにより鋼材に直接取り付けられます。当社では、独自の高性能アルミニウム合金陽極や亜鉛合金陽極を提供しています。

適用分野
下部工
海水中、石積中、または海底土中といった電解質のある環境の鋼材に対しては、電気防食が適用可能です。この環境では、防食電流が効率的に流れるため、アルミニウム合金陽極が一般的に使用されます。アルミニウム合金陽極は、亜鉛合金陽極と比べて発生電流が大きく、長期間にわたり安定した防食効果を発揮します。さらに材料自体が比較的安価なため、経済的な防食が実現できます。なお、大気中に露出した鋼材に対しては被覆防食工法を併用します。

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棒状タイプ -
板状タイプ -
アルミニウム合金陽極 -
岸壁への設置事例 -
潜水士による設置状況
上部工
大気中にあるコンクリート構造物は電気抵抗が高いため、対象となるコンクリート表面全体に当社独自のバックフィルを組み合わせた亜鉛防食板を設置し、内部鉄筋と陽極材を電気的に接続することにより、コンクリート中の鉄筋の電気防食が可能となります。この方法は、塩害による劣化が懸念される鉄筋コンクリート構造物に対して有効です。本方式の適用により、補修工事の頻度を抑え、維持管理コストの削減を実現できます。また、供用中でも施工が可能なため、港湾機能を維持しながら防食対策を実施できます。
- 鉄筋コンクリートの塩害について詳しくは
- 塩害によるコンクリートの劣化
- 鉄筋コンクリートの塩害対策(防食対策)の詳しくは
- 電気防食工法


外部電源方式
外部電源方式は、直流電源装置と難溶性の電極を用いて、鋼材に防食電流を強制的に供給する方式です。1つの電極から広範囲に防食電流の供給が可能である一方、専門的な技術や定期的な維持管理が必要となります。電気抵抗の高い環境や環境条件が大きく変化する場所においても、強制的に電圧をかけて電流を流すため、安定した防食効果を得ることができます。また、システムによる24時間の監視が可能で、防食状態をリアルタイムでモニタリングできます。



適用分野
下部工
アルミニウム合金陽極の設置が困難な施設に対しては外部電源方式が採用されます。この方式では、直流電源装置、排流端子、配線配管、接続箱、難溶性電極を対象設備に設置し、海水中、石積中、または海底土中の鋼材に対して防食効果を発揮します。また、大気中に露出した鋼材に対しては被覆防食工法を併用します。
- 適用例
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- ・海底トンネル(沈埋函)
- ・海底埋設管
- ・洋上風力発電設備の基礎部
- ・護岸(鋼矢板)


上部工
難溶性電極をコンクリート表面あるいは内部に設置し、鉄筋に排流端子を取り付けて直流電源装置に接続することにより、コンクリート中の鉄筋の電気防食を行います。直流電源装置により電圧や電流の制御が可能であるため、構造物の状態や環境に応じた最適な防食状態を維持することが可能です。この方法は、塩害による劣化が懸念される鉄筋コンクリート構造物に対して特に有効で、本方式の適用により、補修工事の頻度を抑え、維持管理コストの削減を実現します。さらに、供用中でも施工が可能であるため、港湾機能を維持しながら防食対策を実施することができます。
- 鉄筋コンクリートの塩害について詳しくは
- 塩害によるコンクリートの劣化
- 鉄筋コンクリートの塩害対策(防食対策)の詳しくは
- 電気防食工法

- 適用例
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- ・桟橋
- ・岸壁
- ・護岸

